男女共同参画基本理念

慶應義塾の創設者である福澤諭吉は、『男女の区別なし』の考え方を生涯にわたり説き、実践した人であり、たとえば封建制度の残滓濃い1870年に「男といい女といい、等しく天地間の一人にて軽重の別あるべき理なし」(「中津留別之書」)と述べています。
男女を問わずすべての人が自らの能力を活かすことができ、共に協力することを通して喜びと糧を得られる社会が、これからの私たちが目指す社会像です。そして、独立自尊の伝統を原点として男女・生活・文化・伝統・国籍・経済的背景等の違いを問わず意欲と力のある人に開かれた学塾の実現を目指すことは、慶應義塾の大きな使命です。

この21世紀において私たち人類は、地球環境と私たちの生きる社会を持続させるという重大な課題を抱えています。日本と世界がこの時代の大きな転回点にある今日、この問題に対して有効な解決を与えるとともに、その先導者となる人材を育成していくためには、慶應義塾は、より成長・進化しなければなりません。複雑化する社会的諸課題を解決していくためには、多種多様な人間の知恵を集結することが不可欠です。しかし、従来より、他の多くの分野と同様、教育・研究・医療機関においても、もっぱら男性が中核的役割を担い、社会の制度や慣習もそのことを支えてきたという事実があります。これからは、この性差による構造を、個人差の協調・共同による活力の構造に置き換えることが肝要と考えます。そのうえで、教育・研究・医療に携わるすべての人々がその個性と能力を思う存分発揮し、相互に刺激しあい、全体が知の宝庫として社会に貢献することが期待されます。多様な知性が集結して初めて、今日私たちが抱える問題の解決が可能になります。慶應義塾はこのような理念において、先進的役割を果たしていくことを目指します。

慶應義塾は、創立以来の「全社会の先導者たらん」という福澤諭吉の志を受け継ぎ、未来への先導を積極的に担う多様なリーダー像を提示し、それにふさわしい人材を育て上げることを目指しています。男女の性差を区別こそすれ、固定化された分業という旧き構造に帰着させることなく、多様で優れた知性と感性の協業を実現し、社会に貢献する人材を輩出する学塾となることを強く目指しています。

また、慶應義塾は、教育・研究・医療機関として、さまざまな人々の思考、あるいは社会のあり方に対しても多大なる影響を与えることができる社会的存在であると考えます。それゆえ、責任ある教育・研究・医療機関として、教育・研究・医療活動を営む人々が、十全にもてる力を発揮できるような社会的・制度的環境を作り出すことが必要であると考えます。

慶應義塾は、「独立して生きる力」と「協力して生きる力」を兼ね備えた人材を育成し、国内はもとより諸外国に対して責任ある貢献を果たしていくために、男女共同参画に向けた基盤を構築することを目指します。そして、この取り組みを通じて恒久に持続する社会の実現に寄与することを目指し、ここに男女共同参画基本計画を提示します。

男女共同参画基本計画

A) 男女共同参画社会を先導するキャンパス環境の整備
B) 教育・研究・医療および就業・就学と家庭生活との両立支援
C) 次世代のための男女共同参画事業の展開
D) 社会および地域との協生
E) 男女共同参画の構築に向けた体制の整備

A) 男女共同参画社会を先導するキャンパス環境の整備

慶應義塾は、「未来への先導」を果たすことのできる多様なリーダーの育成を目標として、男女共同参画について全塾的な合意基盤を形成し、速やかに、かつ適切に必要なキャンパス環境を整備することを検討しその実現を目指す。

  1. 塾内のあらゆる意思決定プロセスにおけるジェンダー・バランスの配慮。
  2. 男女共同参画の基本理念や基本計画等を全塾的に浸透し具体化させるため、各キャンパスへの男女共同参画室分室設置。
  3. 男女共同参画に関する意識やニーズ、実態等の調査・公開、塾内外に散在する慶應義塾の男女共同参画に関する資料等の集積・整理・分析・公開。
  4. 塾内の既存制度や慣行等から男女共同参画を阻害する要因抽出と除去努力。
  5. 男女共同参画社会を先導するキャンパスにふさわしい施設整備および環境改善。
  6. 「次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画」の定期的見直しと男女共同参画に関する諸制度改正。

B) 教育・研究・医療および就業・就学と家庭生活との両立支援

慶應義塾は、男女共同参画基本理念に基づき、教職員・学生に向け、家庭生活との両立支援に必要な施設・制度を検討しその実現を目指す。

  1. 教職員・学生の多様なニーズに応じた保育を実施する施設・制度の検討。
  2. 妊娠・出産・育児・介護等の支援情報収集と広報、関連相談を可能とする環境の整備。
  3. 病児保育支援、一時保育支援等、先行実施されている女性研究者支援業務の継続・拡充。
  4. ITを活用したワークライフバランスのための情報支援環境の整備。
  5. 専門家によるキャリア・アドバイス、カウンセリング制度の設置。
  6. すべての教職員が妊娠・出産・育児・介護等のライフイベント時でのキャリア継続、多様なニーズに応じた休業およびワークロード軽減制度等の整備。

C) 次世代のための男女共同参画事業の展開

慶應義塾は、次世代に対する男女共同参画理念浸透のための事業展開を検討しその実現を目指す。

  1. 大学・大学院の講義や一貫教育校の授業の中で、学生や生徒を対象とし、男女共同参画に関わる学習・研究機会の設置。
  2. 大学・大学院および一貫教育校との相互交流を深め、男女共同参画の理念やあり方について世代を超えた共通理解の育成。
  3. 女子学生、女性研究者の比率が低調な理工系、医学系でのキャリア育成支援。
  4. 看護系男子学生、看護系男性研究者へのキャリア育成支援。

D) 社会および地域との協生

慶應義塾は、社中および社会地域連携室と協力し、男女共同参画に関する理念や価値観を共有する自治体、民間企業、NPO、その他の組織や個人との、多様・ 多元的、かつ、互恵的な社会貢献のためのコミュニティ基盤を構築し、男女共同参画に関して広く社会に対して貢献できる施策を検討しその実現を目指す。

  1. 男女共同参画をテーマにし、他大学や諸外国の大学・組織との連携を強化。
  2. 地域および社会に向けた男女共同参画に関するセミナーやシンポジウム等の定期的、かつ継続的開催。
  3. 男女共同参画に関する定期的な報告書作成と社会および地域に対する情報公開、および啓発活動の実行。

E) 男女共同参画の構築に向けた体制の整備

慶應義塾は、本基本計画を計画的に実施していくために、進捗状況を確認し、それぞれの取り組みについて担当部門の明確化や重点課題の設定等、事業計画の具体化・精緻化を行い、慶應義塾がわが国における男女共同参画社会の形成を先導できるよう検討しその実現を目指す。

  1. 年度ごとの進捗状況確認、担当部門の明確化と事業の具現化、当該年度以降の事業計画の策定。
  2. 男女共同参画に関連する施策制定や運用に対する慶應義塾教職員からの意見の聴取。
  3. 男女共同参画体制構築のため、関連部門との密接な連携を図り、効果的かつ効率的な施策の実施。
  4. 男女共同参画の実現に向けた取り組みに対する活動評価の公開。